神家の僧渡

「なるほど!つまり『倉凪の精』か。六波羅探題の忌み子がまだ絶えていなかったとはね!これは愉快だ。その力どれほどのものだい?」
粘着質の笑いが気に障る。その呼び名は私の嫌う呼び名の一つなのが不機嫌に拍車をかける。いっそここで殺してしまおうか?
いけない。つい、起こしてしまうところだった。
「うるさい。私の存在定義などしなくていい。そんな暇があったらさっさと消えてくれ」
まだ笑ったまま不愉快な目線をとばしてくる。
「それはひどいな。じゃあみせてくれ。倉凪の『秘匿されなければならなかった呼び声』を!」
ああ、本当にうるさい。もういい。起こしてしまおう。
「承前護法看過せず。ここに堪えず申し送る。『端々から消え去れ』」
不機嫌のもとの周辺に意識を傾けたまま、呼ぶ。召喚真法が作動する感覚が指の先をちりちりとさせ、法が実行される。
黒い球体が現れ、急激に広がり、そしてまた急激に縮む。空気ごと「持って行った」ため、真空の場所が生まれ、空気の割れるような音とともに風が巻き起こる。


それだけだ。おわり。しかしまだいるものだとはまさか思わなかった。あの呼び名を知っている人間が。まだ私は京都の闇にとらわれているという事か。