今度はファンタジックに

残光を引きながら振り抜けた刃を感知する。しかけられた制御式を破るべく力業で反射遷移させた。
一瞬の力の交叉。領域設定が崩壊し、力業が勝った事を示す。
襲撃者とのとの距離を取りながら、彼女、リシエデ・ベネダラックは左目に意識を集中させた。同時に誰何の声を発する。
「いったい何事!?誰?」
かえる声はなし。職業的な相手かと推測する。確実に殺しに来てるということか。しかし、こういうことをいきなりうけるような事に思い当たる節はないのだが、と一瞬とまどうがすぐに完全に退けてしまうのが一番だと決意した。
決意したからには何手か打っても構わないだろう。
左目に集中した意識をさらに集中させる。だんだんと視界がぼやけて流れの束に変わる。次に右手を握り込むんでこめかみの横にもってくる。「つなが」った。流れの束の一部を傾け、襲撃者が式の支えにしてる長円型の汎用領域に直接重なるようにしてやり、吸い込み口となる単一場を点の形で配置する。
そして手を開いた。道に沿うように流れる力の何割かが直接注ぎ込まれて襲撃者の周囲が一瞬ふくれ、そして単一場に向かって収束していく。あっという間に。襲撃者は同時に吸い込まれこの場から姿ごと消えた。

「…」
彼女は無言のまま佇んでいたが、やがてすこし乱れた眼鏡を軽く直し、踵を返して何事もなかったように帰路についた。たぶん誰にも見られていないだろう。自分にはこんな力はなかった事になっているので、人に見られていると何かと厄介かもしれない。見られていない事に越した事はない。